本書には、近代産業史をふりかえった上で、知財紛争の事例、企業の知財戦略、
法律の改正等に基づいて、IT業界におけるプロパテント
(特許の保護を強める動き)とアンチパテント(特許の保護を弱める動き)を
中心に説明した内容が掲載されています。
本書は、主としてIT業界における特許戦略を説明しているため、
特にIT分野の特許を専門とする実務者の方におすすめです。
プロパテント政策が成果をもたらした事例、アンチパテントの施策が
必要となった事例、三大企業(マイクロソフト社、アップル社、グーグル社)の
知財戦略を掲載していることが大変よかったと思う。
本書は全6章で構成されていますが、プロパテントの潮流、
アンチパテントの潮流、第三の勢力の脅威を説明している第3章〜第5章は
読む価値が高いと考えています。
また、本書によれば、米国における特許訴訟全体の半数以上は
パテント・トロールによるものであったとのことですので、
パテント・トロール対策を強化することが極めて重要でしょう。
印象に残ったポイントは、下記9点です。
(1)特許を巡るニュースの背景にある2つの思想の対立が存在し、
1つは特許の保護を強める動きを示す「プロパテント」であり、
もう1つは特許の保護を弱める動きを示す
「アンチパテント」である(本書5頁参照)。
(2)パテントプールの代表例としてMPEG-LA
(MPEG Licensing Association)、3Gパテントプラットフォーム
(現SIPRO)が挙げられる(本書28頁参照)。
(3)「コピーレフト」は、著作権(copyright)に対抗するもので、
著作権者が著作権を保有したまま、二次的著作物も含めて、すべての者が
著作物(プログラム)を利用・再配布・改変できなければならないという
考えである(本書58、59頁参照)。
(4)IT業界への影響が大きい国際標準化団体としてITU、ISO、IECがあり、
この3つの団体のパテントポリシーは策定当初からばらばらのままである
(本書77頁参照)。
(5)出願から長い年数をかけて、公開されないまま突然登録される
特許のことをサブマリン特許と呼ぶ(本書100頁参照)。
(6)特許の売買は、秘密裏の取引を仲介するパテント・ブローカーと公開の
取引を仲介するパテント公開市場に区分することが可能であり、
パテント公開市場の例としては、パテント・オークション、
パテント・リスティング・サービス(Patent Listing Service)、
パテント・クリアリングハウス(Patent Clearing House)がある
(本書113、114頁参照)。
(7)プロパテントを背景とした日本での企業の特許売却の状況について、
公にされた情報や報告書はほとんどないが、これはライセンス契約の
存在と同様に企業が機密情報として管理しているためである
(本書115頁参照)。
(8)知財業界では、パテント・トロール対策を視野に入れた特許防衛の
営利組織や協定が登場してきたが、防衛的パテント・アグリゲーターは
会員から会費等の費用を徴収して対策サービスを行う企業体である
(本書177頁参照)。
(9)「本来、特許にされるべきでない技術が特許査定されないようにするには
どうすべきか」の問いに対し、防衛的公開や先行文献の提供は
その解決のアイデアの一つであるが、「専門家が審査に関与すればよい」
というアイデアが、ピア・ツー・パテントである(本書200頁参照)。
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